コラム詳細

合同会社の「事前確定届出給与」

2025/11/07

—定款の整備がなければ損金算入できません

 

■ 合同会社が増える中で目立つ“税務の落とし穴”

近年、設立費用の安さや手続きの簡便さから、**株式会社ではなく合同会社(LLC)**を選択するケースが急増しています。
しかし、その自由度の高さが裏目に出て、税務上の制度を適用できないというケースも多く見られます。

特に注意すべきなのが「事前確定届出給与」(役員賞与の損金算入制度)です。
株式会社では一般的に使われていますが、合同会社では定款や手続きの整備が不十分だと適用できない点に注意が必要です。


■ 東京国税局が示した3つのポイント

東京国税局が2025年2月に公表した文書回答では、合同会社であっても一定の要件を満たせば事前確定届出給与として損金算入できると明示されました。

ただし、その前提として、次の3つの条件が定款に明記されていることが必要です。

  1. 定時社員総会を定めていること
     合同会社には法律上の「株主総会」が存在しません。
     そのため、定款で「定時社員総会」を設け、報酬決定の場を明示しておく必要があります。

  2. 業務執行社員の任期を定めていること
     任期が定められていないと「職務の執行期間」が不明確となり、 届出書の提出期限(=職務開始日から1か月以内)を特定できません。

  3. 報酬・賞与支給の根拠を定款に記載していること
     たとえば「社員の報酬その他財産上の利益は、総社員の同意によって定める」といった条文です。 この記載がなければ、報酬支給の法的根拠が欠けることになります。


■ 届出期限にも要注意

届出書は**「職務の執行開始日」から1か月以内**に提出しなければなりません。
東京国税局の見解によると、合同会社の場合は

「定時社員総会の開催日を職務の執行開始日とみなす」

とされています。

つまり、定款で「定時社員総会」を定めていない場合には、届出期限の起算点が存在しない=損金算入できないということになります。


■ よくある誤解とリスク

実務では次のような誤解が少なくありません。

  • 「合同会社でも株式会社と同じように届出書を出せばいい」
     → ✕ 届出以前に、定款・決議の体制が整っていなければ適用できません。

  • 「任期を決めていなくても実態として続けていれば大丈夫」
     → ✕ 任期が定款に明記されていないと、職務期間が定義できません。

  • 「社員同士で口頭合意しておけば問題ない」
     → ✕ 定款や議事録など、書面での根拠が必須です。


■ 実務対応のチェックリスト

合同会社で事前確定届出給与を採用する場合、以下の5点を確認しておきましょう。

 ☑ 定款に「定時社員総会」の規定がある
 ☑ 定款に「業務執行社員の任期」を定めている
 ☑ 定款に「報酬・賞与支給の根拠」がある
 ☑ 総社員の同意・決議が定款手続きに沿って行われている
 ☑ 届出書を「職務開始日(定時社員総会日)から1か月以内」に提出している

これら5点がそろって初めて、制度として有効に機能します。


■「設計」が大事

事前確定届出給与は、「届出書を提出すること」が目的ではありません。
定款・決議・届出・支給のすべてが整合していることが前提です。

合同会社のように制度設計の自由度が高い形態では、
税務の仕組みを事前に織り込んだ定款づくり」が不可欠です。

届出よりもまず、設計段階で税務リスクを防ぐこと。
それが、今後の合同会社経営における最も重要な視点といえるでしょう。